再生農業で土壌の硬盤層はどう改善する?不耕起・浅耕での物理性対策
再生農業での土壌硬盤層、経験農家が気になる疑問とは?
慣行農法で長年農業をされてきた皆さんにとって、土壌の物理性は非常に重要な要素です。耕耘によって土壌を膨軟にし、作物の根が張りやすい環境を作ることに注力されてきたかと思います。
一方、再生農業では、不耕起や浅耕、土壌被覆などを通じて、土壌を撹拌せず、自然な構造の発達を促すことを目指します。ここで多くの方が抱く疑問が、「耕さない、あるいは浅くしか耕さないことで、逆に土壌が締まって硬盤層ができてしまうのではないか?」という点ではないでしょうか。
特に、過去にトラクターのタイヤ跡などで硬盤層ができた経験がある方にとっては、大きな懸念材料となるでしょう。再生農業では、この硬盤層の問題にどのように向き合い、どのような対策を行うのか?この記事では、その具体的なアプローチについて詳しく解説していきます。
なぜ不耕起・浅耕でも硬盤層ができるリスクがあるのか?
不耕起や浅耕を導入しても、土壌が締まるリスクは存在します。その主な原因は以下の通りです。
- 機械作業による物理的な踏圧: 特に湿潤な圃場での機械走行は、慣行農法と同様に土壌を強く圧縮し、硬盤層の原因となります。再生農業であっても、収穫作業や畝立てなどの機械作業は避けられないため、このリスクは常につきまといます。
- 特定の土壌タイプ: 粘土質の土壌など、構造が崩れやすく締まりやすい性質を持つ土壌では、不耕起によって自然な構造が形成されるまでに時間がかかり、その間に締まってしまう可能性があります。
- 有機物投入の不足: 土壌の団粒構造を形成し、物理性を改善する上で有機物は不可欠です。有機物の投入が不十分な場合、土壌は締まりやすくなります。
- 土壌生物の活動不足: 土壌動物(特にミミズ)や微生物は、土壌に孔を開けたり、有機物を分解して団粒構造を強化したりする役割があります。これらの活動が低いと、土壌の物理性改善が進みません。
硬盤層が作物生育に与える影響
硬盤層は、作物の根の伸長を阻害し、養水分吸収を妨げます。これにより、作物の生育不良や収量低下を招くだけでなく、水はけや水持ちの悪化、根腐れ病のリスク増加にもつながります。再生農業で目指す健全な土壌生態系と作物生育のためには、硬盤層の発生を抑え、もし発生してしまった場合は適切に対処することが重要です。
再生農業における硬盤層対策の基本的な考え方
再生農業では、耕耘に頼らずに土壌の物理性を改善するため、以下の要素を組み合わせたアプローチを取ります。
- 土壌生態系の力: 土壌微生物や土壌動物(ミミズなど)の活動を最大限に引き出し、自然な団粒構造の発達や土壌孔隙の形成を促します。
- 植物の根の力: 深く強く根を張る植物(カバークロップなど)を利用し、物理的に硬盤層を突き破り、土壌に孔を開けます。
- 有機物の効果: 有機物を継続的に投入することで、土壌生物の餌となり、団粒構造を安定させ、土壌の物理性を改善します。
具体的な硬盤層対策
これらの考え方に基づき、再生農業で実践される具体的な硬盤層対策は以下の通りです。
1. 深根性カバークロップの活用
硬盤層対策として最も有効な手段の一つが、深根性を持つカバークロップの栽培です。
- 代表的な種類:
- ギ酸根菜(ダイコンなど): 太く強い直根が硬盤層を物理的に突き破ります。
- マメ科(アルファルファ、クリムソンクローバーなど): 細根が深く広く伸長し、土壌構造を改善します。窒素供給のメリットもあります。
- イネ科(ライムギ、ソルガムなど): 密な根系が表層だけでなく、種類によっては深層まで伸び、土壌を安定させます。
- 導入のポイント:
- 硬盤層が懸念される圃場や作付け体系に合わせて種類を選びます。
- 作付けのローテーションに組み込み、計画的に導入します。
- 十分に根が発達する期間を確保することが重要です。
- すき込みや残渣処理の方法も、後の作物に影響しないよう考慮します。
2. 有機物の継続的な投入
堆肥、緑肥、作物残渣などを継続的に土壌に投入することは、土壌生物を活性化させ、団粒構造を強化し、土壌の物理性を持続的に改善します。
- 効果:
- 土壌粒子の結合を強め、団粒化を促進します。
- 土壌生物の餌となり、その活動(孔隙形成、有機物分解)を促します。
- 土壌の保水性、通気性を向上させます。
- ポイント:
- 完熟堆肥など、適切な資材を選びます。
- 一度に大量に投入するより、継続的に適量投入することが効果的です。
- 未分解有機物の投入は、土壌中で分解される際に一時的に酸素を消費し、土壌を締める原因となる場合もあるため注意が必要です。
3. 土壌動物(特にミミズ)の生息環境整備
ミミズは土壌中を移動しながら、有機物と鉱物質を混ぜ合わせ、硬い糞(キャスト)として排泄します。このキャストが団粒構造の核となり、土壌に多数の孔隙(バイオポア)を形成します。これらの孔隙は水や空気の通り道となり、根の伸長も助けます。
- 環境整備のポイント:
- 化学肥料や農薬の使用を減らします。
- 土壌表面に作物残渣などを残し、餌を提供します。
- 過度な乾燥や湿潤を避けます。
- 不耕起や浅耕はミミズの生息場所を保護する効果があります。
4. 機械作業による踏圧の最小化
再生農業の圃場でも、トラクターなどの機械作業は避けられません。踏圧による硬盤層の発生リスクを減らすためには、以下の対策が有効です。
- 乾いた圃場で作業を行う: 土壌が湿っていると非常に締まりやすいため、可能な限り乾燥した状態で作業を行います。
- 低圧タイヤの使用: タイヤの空気圧を低くすることで、接地面積を広げ、単位面積あたりの圧力を分散させます。
- 決まった通路の利用: 機械が走行する場所を特定の通路に限定し、それ以外の圃場を踏圧から保護します(永年畝や永年通路の考え方)。
- 機械の軽量化: 可能であれば、軽量な機械や作業方法を選択します。
5. 移行期の対応と局所的な対策
慣行農法から再生農業への移行初期は、土壌の物理性改善が進んでいないため、硬盤層ができやすい、あるいは過去の硬盤層が残っている場合があります。
- 移行期の耕耘: 必要に応じて、移行期の一時期のみ、深耕やサブソイラなどを用いて硬盤層を物理的に破壊することも選択肢の一つです。ただし、これはあくまで一時的な手段であり、その後は再生農業的な手法で土壌構造の維持・改善を目指します。
- 局所的な対策: 問題箇所に限定して、深根性カバークロップを集中的に植え付けたり、手作業で土壌を改善したりする方法も考えられます。
硬盤層改善の進捗をどう見るか?
土壌の物理性改善は、目に見えるまでに時間がかかるプロセスです。進捗を確認するためには、定期的な観察が重要です。
- スコップ診断: スコップで土壌を掘り、断面の構造、根の張り具合、ミミズの生息状況などを観察します。硬盤層の有無や深さ、土壌のほぐれやすさを確認できます。
- 貫入抵抗計: 簡易的に土壌の硬さを数値で測定できます。場所や深さを変えて測定することで、硬い層の分布を把握できます。
- 土壌診断: 物理性だけでなく、化学性、生物性の指標も併せて診断することで、土壌全体の健全性の変化を総合的に把握できます。
まとめ:時間はかかるが、土壌生態系の力で物理性を改善
再生農業における土壌の硬盤層対策は、慣行農法のような物理的な耕耘に頼るのではなく、土壌生態系の力を借りながら、時間をかけて進めるアプローチです。深根性カバークロップ、継続的な有機物投入、土壌生物の活性化、そして機械作業による踏圧の最小化が主な柱となります。
移行期には一時的な物理的対策が必要な場合もありますが、最終的には土壌自身の回復力と健全性を高めることが、持続可能な物理性改善につながります。焦らず、土壌の変化を観察しながら、ご自身の圃場に合った方法で取り組んでいくことが成功の鍵となるでしょう。