再生農業での輪作・間作:土壌改善だけでなく経営リスクも減らせる?導入方法と効果
再生農業に関心をお持ちの皆様、日々の圃場管理、お疲れ様です。
再生農業への転換を検討される中で、「輪作」や「間作」といった、作物体系を多様化することの重要性について耳にされる機会も増えているのではないでしょうか。長年、特定の作物や体系で農業を営んでこられた方にとっては、「今さら作物を変えるのは大変ではないか」「収益が不安定になるのでは」といった不安もあるかもしれません。
しかし、再生農業において、輪作や間作による作物体系の多様化は、単なる土壌改善の手法にとどまらず、農場経営の安定化にも大きく貢献する可能性を秘めています。
この記事では、再生農業における輪作・間作の役割とその具体的な効果、そして導入を検討される際に役立つ考え方についてお話しします。
再生農業で輪作・間作が注目される理由
輪作とは、同じ圃場で異なる作物を周期的に栽培すること、間作とは、同じ圃場に異なる作物を同時に栽培することです。これらの手法は、慣行農法でも古くから病害虫抑制などの目的で取り入れられてきました。
再生農業では、これらの手法をさらに進め、「生物多様性の向上」という視点から重視します。単一作物(モノカルチャー)の栽培は、特定の病害虫や雑草が繁殖しやすく、土壌中の特定の養分が偏って消費される、根の張り方が画一的になるなど、土壌の健全性や生態系のバランスを崩すリスクを高めます。
これに対し、多様な作物を組み合わせる輪作・間作は、以下のような再生農業の基本的な考え方と深く結びついています。
- 生物多様性の向上: 多様な作物は、土壌中の多様な微生物を育み、病害虫の天敵となる生物を呼び寄せます。
- 土壌被覆の維持: カバークロップとしての作物を組み合わせることで、休閑期を作らず土壌を常に被覆し、土壌流出防止や有機物供給に繋がります。
- 生きた根を土壌に残す期間の最大化: 年間を通じて何らかの作物が土壌に根を張る期間を長くすることで、根圏の微生物活動を促進します。
土壌に対する輪作・間作の具体的な効果
輪作・間作による作物体系の多様化は、圃場の土壌に対して多角的なメリットをもたらします。
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病害虫・雑草の抑制:
- 特定の病原菌や害虫は、特定の作物を宿主とします。同じ作物を連続して栽培すると、これらの病害虫が土壌中に蓄積されやすくなります(連作障害)。輪作によって異なる作物を栽培することで、宿主がなくなる期間ができ、病害虫の密度を自然に減少させることが期待できます。
- 作物の種類によって、特定の雑草の発生を抑える効果があるもの(アレロパシー作用を持つ作物など)もあります。
- 結果として、化学農薬への依存度を減らすことにつながります。
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土壌養分のバランス改善:
- 作物によって、必要とする養分の種類や量が異なります。また、根の張り方も深さも様々です。輪作・間作により、異なる作物が土壌の異なる層から養分を吸収することで、特定の養分が偏って枯渇することを防ぎ、土壌養分のバランスを改善します。
- マメ科作物を体系に組み込むことで、根粒菌による窒素固定を通じて土壌に窒素を供給できます。
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土壌構造の改善:
- 根の形状や性質は作物によって大きく異なります。深く直根性の根を持つ作物、細かく繊維質の根を張る作物などを組み合わせることで、土壌の様々な深さや範囲に根が行き渡り、土壌をほぐし、団粒構造の発達を促進します。
- 根が張ることで土壌中の物理的な隙間が増え、通気性や排水性が向上します。
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土壌微生物多様性の向上:
- 作物の根からは、様々な有機物(根分泌物)が放出されます。この根分泌物は、土壌微生物のエサとなり、その種類や量を大きく左右します。多様な作物を栽培することで、土壌中に多様な種類の根分泌物が供給され、結果として土壌中の微生物の多様性が豊かになります。多様な微生物相は、養分循環の活性化や病害抑制機能の向上に繋がります。
農場経営に対する輪作・間作の具体的な効果
土壌へのメリットだけでなく、作物体系の多様化は、農場経営の安定化にも寄与します。
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経営リスクの分散:
- 単一作物の栽培では、その作物の市況、特定の病害虫や自然災害(干ばつ、長雨など)の被害が、直接的に農場全体の収益に大きな影響を与えます。複数の作物を栽培することで、どれか一つの作物が不作になったり、価格が低迷したりしても、他の作物で補うことができ、年ごとの収益の変動リスクを低減できます。
- 気候変動による異常気象に対しても、多様な作物はそれぞれの耐性が異なるため、農場全体のレジリエンス(回復力)を高めます。
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病害虫・雑草対策コストの削減:
- 土壌の健康が向上し、病害虫・雑草の発生が抑制されることで、それに使用していた資材(農薬など)の購入コストや散布にかかる労力を削減できます。
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販売チャネルの拡大:
- 多様な作物を生産することで、消費者への直接販売、レストランや小売店への納入、加工用としての出荷など、様々な販売先との取引が可能になり、新たな販路を開拓する機会が生まれます。
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作業の分散:
- 異なる作物は、それぞれ播種、管理、収穫の時期が異なります。これにより、特定の時期に作業が集中しすぎることを避け、年間を通じて作業を分散させることができます。これは、経営者自身の負担軽減や、雇用する上でのメリットにもなり得ます。
輪作・間作の導入を検討する際のポイントと注意点
長年の栽培体系から輪作・間作を取り入れるには、計画と準備が必要です。以下に、導入を検討される際のポイントと注意点を挙げます。
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現状の正確な把握:
- ご自身の圃場の土壌の種類、状態(養分バランス、物理性、病害虫・雑草の発生状況など)を土壌診断などを通じて正確に把握します。
- これまでの栽培履歴を詳細に振り返り、連作によって生じている可能性のある課題を特定します。
- ご自身の経営状況、労働力、既存の機械や設備で対応可能かどうかを検討します。
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無理のない計画の策定:
- 一度にすべての圃場や作物を変更する必要はありません。まずは一部の圃場や、比較的導入しやすい作物から試験的に始めることを検討してください。
- 地域の気候、土壌、市場のニーズに合った作物を選びます。地域の研究機関や普及指導センター、他の再生農業に取り組む農家の情報を参考にすると良いでしょう。
- 栽培する作物の組み合わせ(輪作体系)は、それぞれの作物の特性(養分吸収、根の形状、病害虫耐性、栽培時期など)を考慮して、土壌や経営にメリットが出るように計画します。
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栽培管理の習得:
- 新しい作物を導入する場合、その栽培技術を習得する必要があります。情報収集や研修への参加、先行事例に学ぶことが重要です。
- 異なる作物を同時に管理する間作では、それぞれの作物の生育ステージや管理方法の違いを理解し、効率的な作業体系を構築する必要があります。
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販路の確保:
- 新しい作物を導入する際は、事前に販路を確保しておくことが重要です。地域の市場動向を調査したり、既存の取引先に相談したり、新たな販売先を開拓したりする準備を進めます。
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初期の調整期間への理解:
- 輪作・間作を導入した初期の数年間は、栽培管理に慣れるまで時間がかかったり、期待通りの効果が出なかったりする可能性もあります。長期的な視点を持ち、継続的に取り組みながら調整していく姿勢が大切です。
まとめ
再生農業における輪作・間作による作物体系の多様化は、土壌の健全性を高め、病害虫や雑草の発生を抑制するだけでなく、収益の安定化や経営リスクの分散といった、農場経営にとって非常に重要なメリットをもたらします。
長年の経験をお持ちの農家の皆様にとっては、これまでの知見を活かしつつ、新しい作物の導入や組み合わせを工夫することで、より強靭で持続可能な農業経営を築くことができるはずです。
もちろん、導入には計画や準備が必要ですが、まずは小さな一歩から始めてみるのも良いでしょう。この記事が、皆様が輪作・間作に取り組む上での一助となれば幸いです。ご自身の圃場や経営にとって最良の選択をするために、様々な情報を集め、検討を進めてみてください。