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再生農業で微生物資材は本当に効果がある?種類・選び方・使い方のポイント

Tags: 再生農業, 微生物資材, 土壌微生物, 土壌改善, 有機農業

再生農業における微生物資材の役割とは?

再生農業への転換を検討されている多くの農家さんが、土壌の健康や作物の生育を助けるための様々な資材に関心をお持ちかと思います。中でも「微生物資材」は、土壌の生態系を活かし、化学肥料や農薬への依存を減らす再生農業において、重要なツールとして注目されています。

一方で、「本当に効果があるのだろうか?」「種類がたくさんあって、どれを選べば良いか分からない」「どう使えば効果的なのか?」といった疑問や不安を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。長年の農業経験から培われた確かな技術をお持ちだからこそ、新しい資材に対しては慎重な判断をされることと思います。

この記事では、再生農業における微生物資材の位置づけを明らかにし、主な種類とその特徴、そして圃場の状況に合わせた選び方や効果的な使い方について、現場での実践に役立つ情報を提供いたします。

なぜ再生農業で微生物資材が重要なのか?

再生農業は、単に化学資材を減らすだけでなく、土壌の物理性、化学性、そして生物性を総合的に改善し、生態系の力を活用することで持続可能な農業を目指します。この中で、土壌の生物性、特に多様な微生物の活動は、土壌の健康と作物の健全な生育にとって極めて重要な役割を果たします。

土壌微生物は、有機物の分解、養分の可給化(作物が吸収しやすい形に変えること)、土壌団粒構造の形成促進、そして病原菌の抑制など、多岐にわたる働きをしています。しかし、慣行農法が長く行われた圃場では、特定の微生物が優勢になったり、多様性が失われたりしている場合があります。

微生物資材は、特定の有益な微生物や、その活動を助ける成分を作為的に土壌に補給したり、圃場に元々いる微生物の働きを活性化させたりすることを目的としています。これにより、土壌の生物性を改善し、再生農業への移行を助けることが期待されます。

主な微生物資材の種類とそれぞれの特徴

微生物資材には様々な種類があり、含まれている微生物の種類やその働きによって分類されます。代表的なものをいくつかご紹介します。

  1. 細菌系資材:

    • 光合成細菌: 光エネルギーを利用して有機物などを合成する能力を持ち、有害物質の分解や水質の浄化効果が期待されることもあります。土壌中の物質循環を助けると言われます。
    • 根圏微生物(PGPR: Plant Growth-Promoting Rhizobacteria): 植物の根の周りに生息し、植物ホルモンを分泌して根の成長を促進したり、養分を可溶化して吸収を助けたり、病原菌の定着を阻害したりする働きを持つものがいます。例として、バチルス属菌などが含まれる資材があります。
    • 放線菌: カビと細菌の中間的な性質を持ち、土壌中で抗生物質を生成して病原菌を抑制したり、難分解性の有機物を分解したりする働きを持つものがいます。
  2. 糸状菌系資材:

    • トリコデルマ菌: 有機物の分解能力が高く、特に土壌病害の原因となる特定の糸状菌に対して拮抗作用を持つ種類が知られています。堆肥化の促進にも利用されます。
    • VA菌根菌(アーバスキュラー菌根菌): 植物の根に共生し、菌糸を土壌中に伸ばしてリン酸や水などを効率的に吸収し、植物に供給します。根張りの向上や乾燥ストレス耐性の向上に寄与すると考えられています。
  3. 酵母菌系資材:

    • 有機物の発酵分解を促進したり、植物の生育に必要なアミノ酸やビタミンなどを生成したりする働きを持つ種類があります。
  4. 複合微生物資材:

    • 複数の種類の微生物を組み合わせて、多様な効果を狙った資材です。製品によって含まれる微生物の種類や割合は異なります。

これらの微生物資材は、単に特定の微生物を投入するだけでなく、その微生物が土壌中で活動しやすいように、有機物やその代謝産物などが一緒に配合されている場合が多いです。

微生物資材の失敗しない選び方

多種多様な微生物資材の中から、ご自身の圃場や作物に合ったものを選ぶためには、いくつかのポイントがあります。

  1. 圃場の現状を把握する:

    • 最も重要なのは、ご自身の圃場がどのような状態にあるかを理解することです。土壌診断を行い、化学性だけでなく、土壌団粒構造や排水性といった物理性、そして微生物相の状況(可能であれば)を把握してください。
    • 過去にどのような問題(特定の病害が多い、生育が安定しない、連作障害など)があったかも重要な判断材料です。
  2. 解決したい課題を明確にする:

    • 微生物資材に何を期待するのかを明確にします。特定の病害を抑制したいのか、リン酸吸収を高めたいのか、連作障害を改善したいのか、根張りを良くしたいのかなど、目的に合った微生物が含まれている資材を選びます。例えば、フザリウム病に悩んでいる場合は、トリコデルマ菌を含む資材が選択肢になるかもしれません。リン酸吸収を改善したい場合は、リン酸可溶化菌やVA菌根菌を含む資材が考えられます。
  3. 資材に含まれる微生物の種類と特性を確認する:

    • 製品ラベルやメーカーの情報をよく確認し、どのような微生物が、どのような働きをすることが期待できるのかを理解します。謳われている効果が、科学的な根拠に基づいているかどうかも判断の一助となります。
  4. 信頼できるメーカー・製品を選ぶ:

    • 微生物資材は生きた微生物を扱います。適切な品質管理が行われているか、微生物の種類や菌数が保証されているか、製造・販売元の実績や情報を確認することが大切です。可能であれば、地域の普及センターや農業試験場、信頼できる先輩農家からの情報も参考にしましょう。
  5. 「万能薬」ではないことを理解する:

    • 微生物資材は、それだけで土壌の全ての課題を解決する魔法のような資材ではありません。あくまで、土壌改良や栽培管理全体を補完・促進するためのツールとして位置づけることが重要です。過度な期待は禁物です。

効果的な使い方・施用方法

微生物資材を導入しても、期待する効果が得られないという話を聞くこともあります。これは、資材そのものの問題だけでなく、使い方が適切でない場合も少なくありません。

  1. 適切な施用時期:

    • 微生物が最も活動しやすい時期や、作物にとって効果的な時期に施用することが重要です。例えば、根圏微生物資材は、作物の根が伸び始める定植時や播種時に、根の近くに施用するのが効果的です。堆肥化促進目的の資材は、堆肥の切り返し時に混合します。
  2. 適切な施用方法:

    • 製品ごとに推奨される施用方法(土壌混和、灌水、葉面散布など)に従います。土壌混和の場合は、土壌全体に均一に混ぜ込むことで、微生物が活動できる場所を増やします。灌水施用の場合は、土壌の水分状態に注意が必要です。
  3. 微生物が活動できる環境を整える:

    • 微生物資材に含まれる微生物が土壌に定着し、活動するためには、適切な環境が必要です。
      • 有機物の供給: 微生物の餌となる有機物を十分に供給します。(例:堆肥、緑肥、作物の残渣)
      • 水分と酸素: 適度な水分と酸素が必要です。過湿や過乾燥は微生物の活動を妨げます。適切な排水対策や耕うん(必要な場合)を行います。
      • pH: 含まれる微生物が活動しやすいpH範囲を確認し、必要に応じてpH調整を行います。
      • 化学資材との併用: 一部の農薬や化学肥料は、微生物資材に含まれる微生物の活動を阻害する可能性があります。併用する場合は、製品情報を確認したり、事前に小規模で試したりすることが推奨されます。特に殺菌剤や強い化学肥料との同時施用は避けるべき場合が多いです。
  4. 継続的な土壌管理:

    • 一度微生物資材を施用しただけで劇的な効果が持続することは少ないです。微生物の定着や活動を促すためには、継続的な有機物の投入や、過度な耕うんを避けるなど、再生農業の原則に沿った土壌管理を続けることが何よりも重要です。資材はあくまで「呼び水」であり、土壌本来の生物性を高めることが目標です。

効果の評価と導入にあたっての注意点

微生物資材の効果は、資材の種類、圃場の土壌環境、作物の種類、気象条件など、多くの要因に影響されます。すぐに目に見える効果が現れないこともあります。

まとめ

再生農業において、微生物資材は土壌の生物性を高め、生態系の力を活用するための有力な手段の一つです。しかし、闇雲に利用するのではなく、ご自身の圃場の状況と解決したい課題を明確にし、含まれる微生物の種類や働きを理解した上で、適切な資材を選び、効果的な使い方をすることが極めて重要です。

また、微生物資材はあくまで土壌管理全体を補完するものであり、資材だけに頼るのではなく、有機物の供給、適切な水管理、物理性の改善といった、再生農業の基本的な土壌管理と組み合わせてこそ、その効果を最大限に引き出すことができます。

微生物資材を賢く活用し、より健康的で生産性の高い圃場づくり、そして持続可能な農業経営につなげていくための一助となれば幸いです。