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再生農業での土壌被覆(カバークロップ)の効果は?種類と使い方、失敗しないためのポイント

Tags: 再生農業, カバークロップ, 緑肥, 土壌改良, 栽培技術

再生農業への転換を進める中で、「土壌被覆(カバークロップ)」という言葉を耳にする機会が増えているのではないでしょうか。慣行農法ではあまり積極的に行わなかったこの手法が、なぜ再生農業で重要視されるのか、どのような効果があるのか、そして具体的にどう取り入れたら良いのか、疑問をお持ちかもしれません。

この記事では、再生農業における土壌被覆(カバークロップ)の役割と多様な効果、主な種類と選び方、そして現場での具体的な使い方や管理、導入時に注意すべき点について、詳しく解説します。長年のご経験をお持ちの皆様が、土壌被覆を適切に活用するための実践的なヒントとしていただければ幸いです。

土壌被覆(カバークロップ)とは何か?なぜ再生農業で重要なのか

土壌被覆(カバークロップ)とは、主作物を栽培しない期間や、主作物の生育中に、土壌を物理的に被覆する目的で植え付けられる植物全般を指します。緑肥作物として知られるものも、土壌被覆の一種です。

再生農業では、「土壌を裸地にしない」ことが基本的な考え方の一つです。これは、自然生態系において土壌が常に植物や有機物で覆われている状態を模倣するためです。土壌を裸地にしないことで、雨による土壌浸食や風による飛散を防ぎ、急激な地温変化を和らげ、乾燥を防ぐといった直接的な効果があります。

さらに土壌被覆は、単なる物理的な被覆にとどまらず、以下のような多岐にわたる効果を通じて、健全な土壌生態系の構築と作物生産性の向上に寄与するため、再生農業において極めて重要な手法とされています。

土壌被覆(カバークロップ)がもたらす主な効果

土壌被覆は、導入する種類や方法によって様々な効果を発揮しますが、特に注目すべきは以下の点です。

主なカバークロップの種類と選び方

カバークロップには様々な種類があり、それぞれ特徴が異なります。目的に応じて適切な種類を選ぶことが重要です。

目的別の主な種類例:

選び方のポイント:

  1. 導入目的を明確にする: 土壌改良、緑肥、雑草抑制など、最も重視する効果を決めましょう。
  2. 作付体系と播種時期を考慮する: 主作物の前作、後作、間作としていつ導入できるか、栽培期間はどれくらい確保できるかを確認します。地域の気候や播種適期に合う種類を選びます。
  3. 土壌条件と環境を考慮する: 圃場の土壌タイプ(砂質、粘土質)、排水性、日当たり、地域の降水量などに適した種類を選びます。耐寒性や耐暑性も重要です。
  4. 後作への影響を考慮する: すき込みのタイミングや方法が後作物の播種・定植作業に支障をきたさないか、アレロパシー効果が後作物に悪影響を及ぼさないかなどを確認します。
  5. コストと作業性を考慮する: 種子代、播種やすき込みに必要な機械、作業時間などを考慮して、現実的に導入可能な種類と方法を選びます。

いくつかの種類を組み合わせて混植することで、より多様な効果を得られる場合もあります。

具体的な使い方・管理のステップ

カバークロップの具体的な導入ステップは、種類や作付体系によって異なりますが、一般的な流れとポイントをご紹介します。

  1. 計画:
    • 圃場の状況(土壌診断結果など)と作付体系を確認します。
    • カバークロップ導入の目的(土壌改良、緑肥、雑草抑制など)を明確にします。
    • 目的に合ったカバークロップの種類を選定します(単作か混植か)。
    • 播種時期、栽培期間、すき込み/枯殺時期のスケジュールを立てます。
  2. 播種:
    • 選定したカバークロップの適切な播種時期に作業します。前作収穫後、または主作物の生育中に条間に播種するといった方法があります。
    • 均一に播種し、必要であれば軽く覆土や鎮圧を行います。
    • 乾燥が続く場合は、発芽・初期生育を助けるために灌水が必要な場合もあります。
  3. 栽培管理:
    • 基本的には追肥などの管理は不要ですが、極端に痩せた土壌の場合は初期生育を助けるためにごく少量施肥する場合もあります。
    • 過湿にならないよう排水に注意します。
  4. すき込み・枯殺:
    • 最も重要な工程の一つです。カバークロップの種類や目的に応じて、適切な生育ステージ(例:出穂前、開花期など)ですき込みまたは枯殺を行います。
    • すき込み: 土壌改良や緑肥効果を狙う場合、カバークロップを細かく裁断し、浅く土にすき込みます。微生物による分解を促進するために、すき込み後数週間から1ヶ月程度の期間を空けて後作を播種・定植するのが一般的です。分解期間を十分に取らないと、土中で分解が続き、後作の生育に悪影響が出る可能性があります。
    • 枯殺: 後作の不耕起栽培を前提とする場合など、地上部を枯殺して敷き草として利用します。機械的(ローラークリンパーなど)、自然枯殺(寒害)、化学的(除草剤※再生農業の認証基準によっては使用不可)などの方法があります。
  5. 後作物の栽培:
    • すき込みや枯殺の処理後、計画通りに後作物を栽培します。カバークロップの残渣が多い場合は、播種や定植作業に工夫が必要になることがあります。

導入の際に注意すべき点とリスク

カバークロップは多くのメリットをもたらしますが、導入にあたってはいくつかの注意点とリスクも存在します。

成功のためのポイント

これらの注意点を踏まえ、カバークロップ導入を成功させるためには以下の点を意識することが重要です。

まとめ

再生農業における土壌被覆(カバークロップ)は、土壌構造の改善、有機物供給、雑草・病害虫抑制、養分・水分管理など、多岐にわたる効果をもたらす重要な技術です。適切な種類を選び、栽培体系や圃場の状況に合わせて計画的に導入・管理することで、土壌をより豊かにし、持続可能な農業経営に大きく貢献することが期待できます。

導入にあたっては、種類ごとの特性や導入方法、タイミングが重要であり、またいくつかのリスクも伴うため、事前の情報収集と計画的な取り組みが不可欠です。ぜひ、皆様の圃場に合った形で、土壌被覆の導入をご検討ください。具体的な種類選びや管理方法についてさらに詳しく知りたい点があれば、お気軽にご質問ください。