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再生農業で圃場は気候変動に強くなる?土壌のレジリエンスを高めるメカニズムと実践

Tags: 再生農業, 気候変動, 土壌レジリエンス, 異常気象対策, 土壌管理

近年の農業においては、予測不能な異常気象が大きな課題となっています。長期間の干ばつによる水不足、集中豪雨による浸水や土壌流出など、気候変動の影響は年々深刻化しており、慣行農法を続けてきた多くの農家さんが対策に頭を悩ませていることと思います。

このような状況下で、「再生農業は気候変動に強い」という話を耳にする機会が増えたかもしれません。しかし、「具体的にどうして強いのか?」「自分の圃場でも本当に効果があるのか?」といった疑問をお持ちではないでしょうか。

この記事では、再生農業が圃場の気候変動に対するレジリエンス(回復力、適応力)をどのように高めるのか、そのメカニズムを解説するとともに、現場で実践できる具体的な方法についてお伝えします。

再生農業が圃場の気候変動レジリエンスを高めるメカニズム

再生農業は、土壌の健康を回復・向上させることを核としています。この土壌の健康こそが、異常気象への耐性を高める上で非常に重要な役割を果たします。

具体的には、以下のようなメカニズムが考えられます。

1. 土壌有機物の増加による保水性・保肥性の向上(干ばつ対策)

再生農業では、カバークロップのすき込みや堆肥の施用などを通じて、土壌中の有機物を継続的に増やします。有機物はスポンジのように水分を保持する能力が高く、土壌中に増えることで圃場の保水性が向上します。これにより、干ばつ時でも土壌水分をより長く保つことができ、作物が水ストレスを受けにくくなります。

また、有機物は肥料成分を保持する能力(保肥性)も高いため、水とともに養分が流れ出るのを防ぎ、干ばつで根の活動が鈍くなっても土壌中に養分をストックしておくことができます。

2. 土壌団粒構造の発達による排水性・通気性の向上(豪雨・湛水対策)

土壌有機物が増加し、多様な土壌微生物やミミズなどの働きが活発になると、土壌の粒子が微生物の分泌物などで結合し、「団粒構造」が発達します。団粒構造が発達した土壌は、粒子間に隙間(孔隙)が多くできます。

この孔隙のおかげで、土壌の通気性が向上し、作物の根が呼吸しやすくなります。さらに、雨水が素早く土壌中に浸透するため、集中豪雨時でも表面水の滞留(湛水)や土壌流出を防ぐ効果が高まります。これは、作物の根腐れ防止や、肥料成分の流亡抑制にもつながります。

3. 根系の発達促進と水分・養分吸収力向上

健康で団粒構造が発達した土壌は、根にとって物理的な抵抗が少なく、通気性も良いため、根が地中深くまで、また広く張り巡らされやすくなります。深く広く張った根は、土壌深層部の水分や養分を利用できるようになるため、地表が乾燥しても水分を吸収できたり、必要な養分を効率的に取り込んだりすることが可能になります。これは干ばつに対する耐性を高めるだけでなく、全体的な作物の生育を安定させる効果も期待できます。

4. 土壌微生物多様性の向上と植物のストレス耐性向上

再生農業では、化学肥料や農薬の使用を減らすことで、土壌微生物の多様性を高めます。多様な微生物群集は、植物と共生関係を築き、養分の可給化を助けたり、病原菌から植物を守ったりするだけでなく、乾燥や過湿といった環境ストレスに対する植物の耐性を高める効果も示唆されています。

圃場のレジリエンスを高める具体的な実践

これらのメカニズムを理解した上で、現場で圃場の気候変動レジリエンスを高めるために具体的にどのような実践が有効でしょうか。

1. 有機物の継続的な投入

2. 耕うん方法の見直し(不耕起・最小耕うん)

従来の深く耕す方法から、不耕起栽培や最小耕うん(スタブルハローなどを用いた浅い耕うん)に移行することを検討します。過度な耕うんは土壌構造を破壊し、有機物の分解を促進しすぎることで、土壌炭素を失いやすくします。不耕起や最小耕うんによって土壌構造を維持・改善し、有機物の蓄積を促すことができます。

ただし、不耕起には特定の雑草の増加や土壌温度の低下といった課題も伴うため、地域の気候や作目に合わせた段階的な導入や対策が必要です。

3. 多様な作目と輪作の導入

単一作物の連作は、特定の病害虫のリスクを高めるだけでなく、土壌からも特定の養分を偏って奪い、土壌の疲弊を招きやすくなります。多様な作目を組み合わせた輪作や間作を行うことで、土壌中の微生物相を豊かにし、特定の病害虫の増殖を抑え、土壌の健康を持続的に維持することができます。作目によって根の張り方や養分吸収特性が異なるため、土壌層を多角的に利用・改善する効果も期待できます。

4. 適切な水管理の実践

土壌構造の改善は水はけと水持ちを両立させますが、それだけでは不十分な場合もあります。圃場の地形や土壌タイプに応じて、排水対策(明渠、暗渠など)や、必要に応じた灌水設備の整備も重要です。特に干ばつが予想される地域では、効率的な灌水方法(点滴チューブなど)の導入も有効な対策となり得ます。

転換における考慮事項と課題

再生農業への転換は、圃場のレジリエンスを高める上で有効な手段ですが、すぐに劇的な効果が現れるわけではありません。土壌の健康は時間をかけて改善されるものであり、気候変動に対する耐性も徐々に高まっていきます。

また、不耕起やカバークロップの導入など、慣行農法とは異なる新しい技術の習得や、それに伴う初期の試行錯誤は避けられない場合があります。特定の土壌タイプ(粘土質など)では、団粒構造の改善に時間がかかることもあります。

しかし、長期的な視点で見れば、土壌の健康が回復することで、作物の生育が安定し、肥料や農薬への依存度を減らすことができ、経営の安定化にもつながる可能性があります。気候変動リスクが高まる中で、圃場のレジリエンスを高めることは、将来にわたって農業を続けていくための重要な投資と言えるでしょう。

まとめ

再生農業は、土壌有機物の増加、団粒構造の発達、根系の強化、土壌微生物の多様性向上といったメカニズムを通じて、圃場の干ばつや豪雨に対するレジリエンスを高める可能性を秘めています。

有機物の継続的な投入、耕うん方法の見直し、多様な輪作、適切な水管理などを計画的に実践することで、気候変動に強く、安定した農業生産を目指すことができます。転換には時間と労力がかかりますが、長期的な視点を持って取り組むことが、これからの農業においてはますます重要になるでしょう。

ご自身の圃場の土壌タイプや地域の気候条件に合わせて、この記事で紹介した情報を参考に、できることから少しずつ再生農業の実践を取り入れていくことをお勧めします。