再生農業への転換、気になるコストは?収益化までの期間と経営への影響
再生農業への転換をご検討されている経験豊富な農家の皆様にとって、技術的な側面に加えて、経営面での懸念は大きな課題ではないでしょうか。特に、「どれくらいの費用がかかるのか」「いつ頃から収益が安定するのか」といった点は、転換に踏み切る上での重要な判断材料となります。
この記事では、再生農業への移行に伴うコストの考え方、収益化までの期間、そして長期的な経営への影響について、具体的な視点から解説いたします。
再生農業への転換にかかるコスト
再生農業への転換に伴うコストは、現在の農法や導入する技術によって大きく変動しますが、主に以下の要素が考えられます。
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初期投資:
- 緑肥種子やカバークロップの種子: 裸地期間を減らすため、これらの種子の購入費用がかかります。種類や栽培面積によって費用は変わります。
- 有機資材の導入: 良質な堆肥、ぼかし肥、微生物資材などを外部から購入する場合、初期費用や継続的な費用が発生します。自作することも可能ですが、そのための設備投資や労力が必要です。
- 新しい機械・機材: 不耕起栽培や条播きなどに適した播種機、残渣処理機、堆肥散布機など、新たな栽培技術に対応するための機械が必要になる場合があります。必ずしも全てを一度に導入する必要はありませんが、計画的な投資が必要になることもあります。
- 土壌診断費用: 土壌の健全性や成分バランスを把握するための詳細な土壌診断を定期的に行う費用。
- 学習コスト: 新しい知識や技術を習得するための研修参加費、書籍・資料購入費など。
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ランニングコスト:
- 農薬・化学肥料の削減/撤廃: 再生農業の原則に従うことで、これらの購入費用は大幅に削減、あるいはゼロにすることが期待できます。これは大きなコスト削減要因となります。
- 有機資材の継続的な投入: 土壌改良が進むまでは、堆肥や有機肥料、微生物資材などの継続的な投入が必要になる場合があります。自家生産や地域資源の活用でコストを抑える工夫が重要です。
- 労力: 緑肥の管理、手作業での除草(化学除草剤を使わない場合)、堆肥の切り返しなど、慣行農法とは異なる種類の労力が必要になることがあります。ただし、省力化につながる技術(不耕起、カバークロップによる雑草抑制など)もあります。
慣行農法からの移行期においては、農薬・化学肥料費は減少しますが、有機資材費や場合によっては初期投資がかさむため、一時的に総コストが増加する可能性も考慮しておく必要があります。しかし、土壌が健全化し、生物多様性が増すにつれて、外部からの資材購入量を減らせる可能性があるため、長期的な視点でのコスト評価が重要です。
収益化までの期間と収量・品質の変化
再生農業の最大の目的の一つは、土壌を改良し、作物の健全な生育環境を整えることです。土壌の変化は比較的緩やかであり、その効果が収量や品質に反映されるまでには、ある程度の時間が必要となることを理解しておく必要があります。
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収量への影響:
- 移行初期: 土壌微生物相の変化や、新たな栽培技術への慣れが必要な期間は、一時的に収量が減少するリスクがあります。特に、耕うんを止めることによる土壌物理性の変化などが影響する場合があります。
- 中期以降: 土壌有機物が増加し、団粒構造が発達し、水はけ・水持ち・通気性が改善されるにつれて、作物の根張りが良くなり、病害虫への抵抗力も高まる傾向が見られます。これにより、安定した収量が得られるようになることが期待できます。多くの事例では、数年(3〜5年程度)で収量が回復・安定、あるいは慣行農法と同等かそれ以上になるという報告があります。
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品質への影響:
- 土壌が健全になることで、作物が健全に育ち、栄養価が高まったり、風味が良くなったりすることが期待されます。
- 化学肥料に過度に依存しないことで、作物体内の硝酸態窒素が適正レベルに保たれるなど、食味や安全性の面でメリットが生まれる可能性があります。
- 高品質な作物は、市場での差別化や単価アップにつながり、収益向上に貢献します。
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収益化までの期間:
- 土壌改善の進捗や作物の種類、導入する技術、販路などによって大きく異なりますが、一般的には、収量が安定し、収益が軌道に乗るまでには3〜5年程度の期間を要することが多いとされています。
- ただし、品質向上による早期の単価アップや、新たな販路(例:有機野菜としてのプレミアム価格、直接販売、契約栽培)の開拓によって、比較的早く収益性を改善できる場合もあります。
- 長期的な視点で見れば、土壌の生産性向上、資材費の削減、高品質化による単価アップ、環境保全型農業への補助金などが組み合わさることで、慣行農法と比較して安定した、あるいはより高い収益性を実現できる可能性があります。
経営への影響とリスク管理
再生農業への転換は、単なる栽培技術の変更ではなく、経営全体の変革を意味します。
- 計画的な移行: 全ての圃場や作物を一度に転換するのではなく、一部の圃場から段階的に導入し、技術や効果を確認しながら広げていく「段階的導入」は、リスクを分散し、経験を積む上で有効な方法です。
- 情報収集と学習: 再生農業に関する最新の情報収集、研修への参加、実践者との交流などを通じて、知識と技術を習得し、計画に反映させることが重要です。
- 経営診断と資金計画: 転換にかかる具体的なコスト、予想される収益の変化、資金繰りなどを事前にシミュレーションし、現実的な経営計画を立てることが不可欠です。補助金や低利融資などの活用も検討しましょう。
- 新たな販路の開拓: 再生農業で生産された作物の価値を正当に評価してもらえるような販路を、積極的に開拓することも経営安定化につながります。
まとめ
再生農業への転換には、初期投資や収益化までの期間といった課題がありますが、長期的な視点で見れば、土壌の生産性向上、コスト削減、品質向上、新たな販路開拓による収益安定化・向上といった大きなメリットが期待できます。
転換を成功させるためには、現実的なコストと期間を把握し、段階的な導入、継続的な学習、そして周到な経営計画と資金計画が不可欠です。地域の普及指導員や、既に再生農業を実践している他の農家の方々から情報を得ることも非常に有益です。
不安を一つずつ解消し、ご自身の経営に合った形で、着実に再生農業への第一歩を踏み出していただければ幸いです。