再生農業Q&Aセンター

再生農業で使う有機物の種類と選び方:堆肥、緑肥、残渣は土にどう活かす?

Tags: 再生農業, 土づくり, 有機物, 堆肥, 緑肥

はじめに:再生農業における有機物の重要性

再生農業への転換をお考えの皆様にとって、「土をどう活かすか」は最も気になる点のひとつではないでしょうか。慣行農法で長年培われた経験をお持ちだからこそ、新しい土づくりの方法、特に有機物の活用について様々な疑問をお持ちかと存じます。

この疑問にお答えするため、この記事では、再生農業における有機物の役割、主要な有機物の種類(堆肥、緑肥、作物の残渣)、そしてそれぞれの選び方と効果的な使い方について、実践的な視点から詳しく解説いたします。経験豊富な皆様の土づくりに、新たな視点やヒントを提供できれば幸いです。

再生農業でなぜ有機物が重要なのか?

再生農業では、土壌を生きた生態系として捉え、その健全性を高めることに重点を置きます。この健全性の核となるのが、土壌中の有機物です。有機物は単なる養分供給源ではなく、多様な役割を担っています。

  1. 土壌構造の改善: 有機物が分解される過程で生成される腐植は、土壌粒子を結びつけ、団粒構造の形成を促進します。これにより、土は水はけと水持ち、通気性が向上し、作物の根が伸びやすい環境が生まれます。
  2. 微生物相の活性化: 有機物は土壌微生物にとって主要なエネルギー源となります。多様な微生物が活発に活動することで、養分循環が促進され、植物に必要な栄養素が利用可能な形になります。また、病害を抑制する微生物が増えることも期待できます。
  3. 養分の保持と供給: 腐植は肥料成分、特に陽イオン(カリウム、カルシウム、マグネシウムなど)を保持する能力が高く、降雨による流亡を防ぎます。また、有機物が分解される際に植物に必要な養分が供給されます。
  4. 水分保持能力の向上: 有機物はスポンジのように水分を吸収・保持し、乾燥に強い土壌を作ります。これは近年頻発する異常気象(干ばつなど)への耐性を高める上で非常に重要です。
  5. 炭素貯留: 大気中の二酸化炭素を土壌中に固定し、気候変動緩和にも貢献します。

このように、有機物は土壌の物理性、化学性、生物性を総合的に改善し、作物の生育を安定させ、持続可能な農業経営の基盤を築く上で不可欠な要素と言えます。

主要な有機物の種類と特徴、選び方、使い方

再生農業で活用される有機物は多岐にわたりますが、ここでは代表的な「堆肥」「緑肥」「作物の残渣」に焦点を当ててご紹介します。それぞれの特徴を理解し、圃場の状況や目的に合わせて適切に選ぶことが重要です。

1. 堆肥(Compost)

家畜の糞、植物性残渣などを微生物の働きで分解・腐熟させたものです。様々な種類があり、成分や効果が異なります。

2. 緑肥作物(Cover Crop / Green Manure)

作物として栽培し、土壌改良や養分供給のためにそのまま圃場で土にすき込んだり、地表に残したりする植物です。

3. 作物の残渣(Crop Residues)

収穫後に圃場に残されるワラ、茎、葉などのことです。これらも重要な有機物資源として活用できます。

有機物活用による再生農業への転換ステップと考慮事項

慣行農法から再生農業へ移行する上で、有機物活用の方法を見直すことは重要なステップです。

  1. 現状把握: まず、現在の圃場の土壌有機物含有量、団粒構造の発達度、微生物相の状況などを把握するため、土壌診断を行うことをお勧めします。これにより、必要な有機物の種類や量、改善目標が明確になります。
  2. 目標設定: 短期・中期的な土壌改善目標(例:有機物含有量を○%に増やす、団粒構造を改善する)を設定します。
  3. 有機物活用の計画: 圃場の特性、作付け体系、利用可能な有機物資源(自家産堆肥の有無、近隣での入手可否、緑肥の導入時期など)を考慮して、どの有機物をどの時期に、どのくらいの量投入するかを計画します。
  4. 段階的な導入: いきなり全面積で新しい方法を試すのではなく、一部の圃場で試験的に導入することをお勧めします。特に緑肥の導入や不耕起での残渣処理などは、地域や圃場条件によって向き不向きや管理方法が異なる場合があります。
  5. 効果の評価と計画の見直し: 有機物投入の効果を定期的に土壌診断などで評価し、計画を見直しながら、徐々に再生農業的な有機物活用体系を確立していきます。

考慮すべきリスクと対策:

まとめ

再生農業における有機物の活用は、単に肥料を与えることとは異なり、土壌という生態系全体の健康を高めるための根幹技術です。堆肥、緑肥、作物の残渣といった様々な有機物を、それぞれの特徴を理解して適切に活用することで、土壌の物理性・化学性・生物性が向上し、作物の生育安定、収量・品質向上、そして持続可能な農業経営につながります。

長年の経験をお持ちの皆様だからこそ、土と作物の変化を観察し、柔軟に対応していくことができるはずです。この記事が、再生農業での有機物活用の具体的なイメージを持つ一助となり、皆様の圃場での実践のヒントになれば幸いです。土壌診断などを活用しながら、焦らず着実に土を育てていくことをお勧めします。

再生農業Q&Aセンターでは、皆様からの具体的な疑問や経験談も歓迎しております。どうぞお気軽にお寄せください。